身近な自然もいいね!

家庭菜園や庭の記録。日本各地の自然環境や身近な植物(時々珍しい植物)を紹介しています。

三峰川【その1】-(長野県伊那市)-

三峰川(みぶがわ)は天竜川水系の最も大きな支流で、南アルプス仙丈ケ岳近くが水源となっています。以前、三峰川の支流の黒川山室川を訪れましたが、本川を訪れたのは初めてです。その1では三峰川を特徴づける礫河原特有の植物について紹介したいと思います。

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河川敷は典型的な礫河原で自然裸地(植物のはえていない陸地)が広がっていました。礫は磨かれたようにつるつるで、倒木もかなりありました。最近大規模な出水があったことが伺えます。私は仕事柄グーグルアースを使って航空写真をよく見るのですが、グーグルアースで三峰川を見たところ2017年5月の時点では河原に自然裸地が殆どありませんでした。これが2018年には自然裸地が少し増え、今回見た感じだと、2018年とは流路が大きく変わり自然裸地も大幅に増加しました。2019年の台風19号等の大雨が原因かもしれません。これだけ大量の礫や流木を押し流し、流路すらも変えてしまうなんて、川の力って恐ろしいですね…。

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ただ、このような河川の出水による河床の攪乱は普通の出来事でもあります(ダムや堤防が整備された上での近年の災害は桁違いではありますが…)。そのため、河川敷に生育する植物にとって出水は想定内と言え、礫河原に特有の植物は出水とうまくつきあっているようです。三峰川では礫河原に特有な植物として、カワラヨモギ、カワラサイコ、シベリアメドハギが見ることができました。

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カワラヨモギ。河原植物の代表ともいえ、多くの河川で比較的普通に見られる。

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カワラサイコ。季節外れの花を咲かせていました。カワラヨモギよりも安定した環境に多い印象を受けました。

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シベリアメドハギ。礫河原の植物だと個人的には思います。カワラヨモギとよく混生していました。

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新しい礫河原に植物が定着しはじめていました。礫河原特有の植物にはこのような新しい自然裸地が必要です。

この中でもカワラヨモギ、シベリアメドハギは自然裸地に早い段階で定着するようでした。遠目には自然裸地に見えるようなところも、実際に歩いて見るとカワラヨモギなどはちらほらと生育していました。このような状態だと、ここ1~2年で定着したのだと思います。

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2019年の出水ではあまり影響を受けなかった立地のようです。カワラヨモギが優占種となっていますが、イタチハギ等の木本も入って来ています。

これらの礫河原に特有の植物は条件がよければ群落を形成し(カワラヨモギ群落)、そのような群落はしばらく持続します。しかし、植生遷移が進行してヤナギ等の木本や、ススキ等の大型の草本が繁茂するようになると、礫河原特有の植物は姿を消します。つまり、礫河原特有の植物は大きな出水に時々既存の植生を破壊してもらうことによって、生き延びていくことができるのです。

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カワラヨモギも生えていますが、この部分はオオキンケイギクが優占していました。立地的には礫河原特有の植物が好みそうな環境なのですが…。

礫河原特有の植物は河川の攪乱がある限り、永続的に子孫を繁栄させることができそうですが、近年は昔にくらべると楽観的にはいかないのかもしれません。その理由の一つとしては競合する植物の増加です。外来種の中には礫河原特有の植物ではないものの、礫河原特有の植物が生育するような環境を好むような種類が結構います。三峰川では特にオオキンケイギクとの競合が顕著な印象を受けました。

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特定外来生物でもあるオオキンケイギク。季節外れの花を咲かせていました。

二つ目の理由としては出水の規模とタイミングが考えられます。三峰川についてはこの影響はあまり感じませんでしたが、一般にダムや堤防が整備されると流路はそれほど暴れなくなり、河床が安定化して植生遷移が進行します。

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コゴメヤナギ群落。三峰川では河原が安定するとこのコゴメヤナギ群落かハリエンジュ群落になる様子でした。

多くの河川で堤防やダムが整備されているので、昔に比べると出水が少なく、出水が起きても小規模のものが多いと思われます。そのため多くの河川の河床は安定化する傾向にあり、そうなると河原特有の植物は衰退していきます(実際、礫河原特有の植物の一部は県レベルで絶滅危惧種に指定されているものが散見されます)。近年は大規模な出水も多いですが、河原特有の植物が衰退した後に大規模な出水が起こっても、親となる植物がいなければ、個体群の復活は難しいかもしれません。大規模とまではいかなくても中規模の出水が短い期間で定期的に引き起こされるような環境が、河原特有の植物にとってはよい環境と言えそうです。

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新たに定着したカワラヨモギは白くてフワフワ。礫河原特有の植物が生育しやすい河川工事とはどんなものだろう…。

三つ目の理由としては河川工事があげられます。大規模な出水が起きれば、当然災害が起きないよう河川工事が実施されます。そのような工事による土地の改変も河川特有の植物にとっては影響が大きいと思われます。もちろん災害が起きないよう河川工事は必要です。ただ、河川特有の植物に配慮したような工事というのもこれからは検討する必要があるかもしれません。人にも植物にも有効な河川工事をなんとか見つけたいものです。