覚えておきたい落葉高木-118.イヌブナ-
この前にブナを紹介したので、類似種のイヌブナを紹介したいと思います。
根元付近の葉。神奈川県山北町にて(8月7日)。以下、撮影場所・撮影日同じです。
イヌブナはブナ科ブナ属の落葉高木(らくようこうぼく:冬に葉が落ちる木。高さの決まりはないですが、10m以上はあります)で、本州(岩手県以南)・四国・九州(熊本県以北)に分布します。日本のブナ属(ブナの仲間)は、ブナとイヌブナの2種しかありません。
イヌブナは葉だけを見れば、ブナと似ていますが、生態や生育地はブナとだいぶ異なります。
手前の黒っぽい木がイヌブナ。奥の人の横に生えているのがブナ。
生態ですが、ブナは1本の幹がまっすぐに伸びるのに対し、イヌブナは根元から複数の幹が伸びる萌芽株という形態をとります。ブナは1本の幹で百年以上生きますが、イヌブナの1本の幹はそこまで長寿ではありません。そのためイヌブナの1本の幹はブナほど太くなりません(太くなる前に枯れてしまったり折れたりします)。しかし、1本の幹が枯れても、若い幹が複数出ており、若い幹が再び成長するので、株としてはかなり長生きします。
イヌブナの森。かなりの急傾斜です。手前に萌芽株がイヌブナです。
どうして、このような生態の違いがでたかというと、イヌブナは急傾斜地のような不安定な場所で優占するためだと言われています。急傾斜地だと巨木になりすぎると頭でっかちになって倒れやすくなります。そのため、倒れる前に若い幹を出しておくという感じですね。なかなか考えたものです。
生育地についても、ブナが冷温帯の多雪地で優占するのに対し、イヌブナはブナよりも少し低い標高で、雪の少ない太平洋側に多く分布します。また、ブナが純林を形成するのに対し、イヌブナは様々な木と混生した森林を形成するという特徴もあるみたいです。
イヌブナの特徴は次の4点です。
①幹の生え方と樹皮:萌芽株になりやすい。樹皮は黒っぽく、イボ状のブツブツがあります。
②葉の形:葉は互生(ごせい:葉が交互に出る)します。卵型の葉です。遠目に見ると鋸歯はないようですが、よく見ると目立たない鋸歯があります。ブナよりも少し細長い雰囲気があります。
③葉脈と毛:定規でひいたような真っ直ぐな明瞭な脈が目立ちます。葉裏の脈上に長い毛があり、毛は夏以降もあります。
④枯れ葉:葉裏の毛は枯れ葉でも残ります。また、枯れ葉になるとブナよりも光沢がない感じになります。
ブナとイヌブナは完全ではありませんが、日本海側と太平洋側で住み分けている感じです。性格が正反対な兄弟のようです。