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家庭菜園や庭の記録。日本各地の自然環境や身近な植物(時々珍しい植物)を紹介しています。

2018年の出会いベスト5-261.ツツザキヤマジノギク-

2018年の出会い第3位はツツザキヤマジノギクです。この植物の名前と写真を初めて見たのは「山渓ハンディ図鑑 日本の野菊」(いがりまさし 2007でした。この植物の特徴は舌状花(ぜつじょうか:菊の花の花びらのように見える部分)が平面状ではなく、筒状になる点が特徴のようです。

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長野県中川村にて(11月5日)。以下、撮影日・撮影場所同じです。

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舌状花の部分が舌状じゃなく筒状になっています。確かに変わっています。

最初にこの花の写真を見た時は、「これは単なる奇形じゃないのか?」という印象を持ちました。ところが生育地に行ってみると全ての花が「筒咲き」となっており、舌状花の形は遺伝的に決められた形質のようでした。通常、奇形の場合、集団の中の1個体のみが変な形をしていることが多いので、全ての花が「筒咲き」ということは、私の「奇形では?」という想像は違っているようでした。ただ、この「筒咲き」の舌状花ですが、全て筒咲きというわけではないようで、中には大半が「筒咲き」のものもあれば、1個の舌状花だけが「筒咲き」という場合もあり、これは個体間や、個体内でも違いがあるようでした。「筒咲き」という形質は随分と不安定なもののようです。この不安定な形質を根拠に「山渓ハンディ図鑑 日本の野菊」(いがりまさし 2007ではカワラノギクとヤマジノギクの交雑起源ではないかと、推測されていました。

ツツザキヤマジノギクはキク科属の越年草(えつねんそう:秋に発芽して冬越し、翌春に開花・結実して枯死する)で、中部地方天竜川流域(長野県)に分布します。分布はかなり局所的なようです。礫河原やその周辺の崖地に成立した草地や林縁に生育します。

ツツザキヤマジノギクの特徴は次の4点です。
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①葉:葉は互生し、形状は倒披針形(とうひしんけい:かなり細長い逆さの卵型)から線形で、鋸歯(きょし:葉の縁のぎざぎざ)は殆どありません。茎とともにやや開出した毛が密生します。
②花のつき方:大型の個体では上部で横に長く張り出す枝を出し、多数の花をつけます。そのため頭でっかちのややアンバランスの形になります。ただし、小型の個体は殆ど分枝しないこともあります。
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③花:花の直径は3-4cmで、舌状花(ぜつじょうか)は紫色で、筒状花(つつじょうか)は黄色。舌状花の一部が筒咲きになる点が大きな特徴です。
④種子:種子の先端に冠毛(かんもう)というタンポポの綿毛に似た器官があります。ツツザキヤマジノギクの冠毛は種子の長さと同じ程度と長いのが特徴です。ただし、この冠毛の長さが舌状花と筒状花で異なり、筒状花は長いのに対し、舌状花は短くなります(写真はありません)。

ツツザキヤマジノギクはヤマジノギクと舌状花の形が異なる以外は、殆ど形態的に違いはありません。似たような植物としてはカワラノギクやヤナギノギク等があげられます。


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ヤマジノギク。山口県美弥市にて(11月7日)。この個体は花の色がやや白っぽい。

今回訪れた自生地では、ツツザキヤマジノギクが食害の影響を顕著に受けていました。多分、ニホンジカによる食害だと思います。分布が限られた貴重な植物なので、ちょっと心配でした。