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家庭菜園や庭の記録。日本各地の自然環境や身近な植物(時々珍しい植物)を紹介しています。

植生図の凡例の決め方(その2:環境省さんを例として)

見ていない植生の凡例をどう決めるか?
殆ど目視確認できない環境省の植生図を例にみてみます。
環境省の植生図では、凡例は環境省の作成した群落区分から選択するのが基本です(新規に加えてもよい)。これは凡例が調査者の主観で乱立するのを防ぐにはよいと思います。
環境省の植生図の凡例はシステマチックになっていて、群落を大区分、中区分、小区分と分けています。大区分とは気候帯と植生の相観や性質で区分していて、「落葉広葉樹林」、「自然草原」のような大雑把な凡例となります。中区分は優占種で区分する感じで、「ミズナラ群落」、「コナラ群落」のような感じです。優占種で区分すると、調査者がいろんな群落名をつけてしまうといった弊害もあるので、環境省の凡例では植生学的な知見も加味していて、やみくもにわけなくてもいいようになっています。そして小区分は「ヤマボウシ-ブナ群集」、「ミヤコザサ-ブナ群集」のように「群集」単位となっているものが多く、植生学の専門知識がないと分けられないです。

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北海道羊蹄山のミヤマハンノキの低木林。これを環境省の凡例の「大区分」にあてはめると亜高山帯広葉樹林、「中区分」にあてはめるとエゾメシダ-ウコンウツギ群団、「小区分」にあてはめるとミヤマハンノキ群落となる。同じ群落でも表現方法が3種類あることになる。

環境省の植生図の場合、大区分、中区分、小区分のどの凡例を用いてもOKとなっていて、どの区分の凡例を使用するかは担当者の判断に委ねられます。ここでどれを選択するかがポイントとなります

実際、現地調査を実施すると「群集」といった小区分の植生の配置パターンがなんとなくつかめる時があります(見た範囲で)。さらに既存の文献資料で「群集」に関する情報が充実している場合、小区分の植生配置パターンもより正確になります。このような場合は、見てきたところであれば、自信を持って小区分の凡例を使用することも可能ですし、見ていない場所も、「エイヤッ!」と細かい凡例で決めてしまうことも可能です(私もそういう時、もちろんあります)。

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富山県魚津市のブナ・ミズナラ二次林。谷部の急傾斜地は高木林が成立せずヒメヤシャブシ-タニウツツギ群落(小区分)が分布することが多い。でも見ていないところの低木林も本当にコレでよいのか・・・?、と迷うところですが、エイヤッでこの群落で決めてしまう時がよくあります。

私は「小区分の凡例の境界が明らかにならなかった場合」や、「小区分の凡例の境界が図面上に表現できない場合」は、小区分による群落は使用しないほうがよいのではと思っています。そのため、私は小区分の凡例よりも大区分や中区分の凡例をよく使用します。「それでは大雑把な植生図になってしまう」と思われそうですが、それなりの細かな植生図になります。うちの父親なんか、私が作業しているのを見て、「曼荼羅でも書いてるの?」というぐらいですから、少なくとも大雑把な図ではないと自負しています。

話を戻します。高山帯の植生や湿地植生、草原植生のようなミクロな植生は、ちょっとした環境の変化で植生が入れ替わるため、少なくとも環境省の植生図のような縮尺(1/25,000)では正確な群落区分を表現できないはずです。

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富山県立山(一ノ越からの眺め)の稜線上の植生。手前砂礫地の薄い緑色はミヤマクワガタウラジロタデ群集(多分)。稜線上部の岩っぽいところには多分コメバツガザクラミネズオウ群集がある。しかも濃い緑色はハイマツ-コケモモ群集。1/25,000の地形図に3つの群落の分布を表現するのは困難。

そのような場合、どれか一つの小区分の群落で代表させてしまうという考え方もありますが、それだと「その植生しかない」と誤解を受けてしまうような気がします。せっかく環境省の凡例では群落区分が階層的になっているのだから、小区分の群落のどれかで代表させるのではなく、様々な小区分の群落を含む中区分や大区分といった大雑把な凡例を選択する方がより正確だと私は思います。

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富山県室堂の雪田植生。大半はイワイチョウ-ショウジョウスゲ群集?みたいだけど、奥の岩が転がっているあたりには小規模なアオノツガザクラ群団もありそう。もちろん面積の広いイワイチョウ-ショウジョウスゲ群集で代表させてもいいけど、それだとアオノツガザクラ群団は存在しないというイメージを与えてしまわないか?

群落の捉え方は大雑把より詳細な方がよいに決まっています。でも図面の縮尺、植生図の作成方法によって凡例は変えられるべきで、必ずしも詳細な群落区分が良いとは限らないと思います。もちろん理由付けがあって細かい凡例を採用するなら、それはそれでOKとも思います。でも、植生図を利用する人全員が植生の専門家ではないことを考慮すると・・・あまり難しい凡例もどうかな~
やっぱり環境省の凡例の一部の小区分については、1/25,000で全国一律の基準で作成するのは細かすぎるような気がします。小区分のような凡例は、地図上に図示するのではなく、別な解説文として掲載するのがいいんじゃないかな~。