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家庭菜園や庭の記録。日本各地の自然環境や身近な植物(時々珍しい植物)を紹介しています。

晩秋の花-334.リンドウ-

「11月中旬になると被写体となるようなきれいな花も少なくなってきたな~」と思って歩いていると、目の覚めるような空色の花が飛び込んできました。リンドウです。

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愛知県設楽町にて(11月13日)。草刈り後の小型の個体。まだつぼみもある。

これはラッキーです。リンドウは決して珍しい植物ではありませんが、最近はそうそう開花個体には出会いません。リンドウは主に草地に生育する植物ですが、それほど大きくない植物なので、藪のような草地に生育することは殆どありません。また、そのような草地に生育していても下層が暗くなってしまうので、花を咲かせることはありません。最近は山間部の耕作地は放棄されていることが多く、その周辺の草地も管理されなくなっています。全体的に減少傾向にある植物だと思います。

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福島県いわき市にて(10月16日)。競争相手の少ない草地で花を咲かせます。

リンドウはリンドウ科リンドウ属の多年草(たねんそう:地下部が2年以上生存し、毎年花や実をつける)で、本州~九州の低地や山地に分布します。草地に多い植物ですが、意外なことに河岸の岩場にも生育します。川岸の岩場は増水の影響を受ける過酷な環境ですが、その分競争相手となるような大型の草本類は生育していません。競争相手の多い安定した環境を選ぶか、競争相手の少ない不安定な環境を選ぶか、なかなか悩ましい選択ですね。

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徳島県にて(11月26日)。上の写真のリンドウとは雰囲気がだいぶ異なります。

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中にはこんなにたくさんの花をつける個体も!撮影場所・撮影日は上に同じです。

以前、四国の那賀川河畔で見たリンドウはとても細い葉をたくさんつけ、かつ花も多くつけるちょっと変わったタイプでした。全く別な植物のようにも見えましたが、基本的にはリンドウの特徴を有していました。渓流畔に生育する植物は同一分類群でも葉が細くなる傾向があるので、リンドウの渓流型といったところでしょうか。

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美と実力を兼ね備えた植物。晩秋の七草なら確実に入ります。徳島県(11月26日)。

リンドウは薬として昔から重宝されています。根茎と根を乾燥したものが漢方薬の「竜胆」です。見ても良し、使っても良しです。昔から人々と深いつながりのある美しいリンドウですが、秋の七草には数えられていません。これは開花時期が関係するのかもしれません。秋の七草の「秋」は旧暦だと思うので、中秋の名月(9月下旬~10月上旬)頃が「秋」なのでしょう。リンドウは中秋の名月頃ではまだ咲いていないので、秋の七草には数えられなかったのだと思います。

リンドウの特徴は次の3点です。

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①茎:茎は基部が這うこともありますが、茎の上部は上向きに伸びます。草地に生育することが多いため草刈りの影響を受けやすく、そのような草刈の状況や生育環境によっても大きさは異なりますが、通常は膝丈より少し小さいです(20-40cmくらい)。茎の色は紫色が多いです。

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②葉:葉は対生します。色は緑色(白っぽくはならない)で、茎と共に紫色を帯びることがあります。形状は狭卵形~披針形で全縁(ぜんえん:葉の縁にギザギザがない)です。肉眼では全縁ですが、葉の縁をルーペで見ると透明な小さな突起が密生します。

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③花:花は秋咲きで、茎の先端に1~数個、長さ4cm程度の花をつけます。花は内側が鮮やかな濃い水色で、外側は紫色となり、花の先端は天気がよいと大きく開き、上から見ると花の形が5角形になります。

類似種としてはエゾリンドウがあげられます。エゾリンドウは花があまり開かない点、大きな個体では茎の上部葉腋にも花をつける点、葉の縁が平滑といった点で異なります。あと、エゾリンドウは北海道・本州中部以北に分布する点でも異なります。