2020年はねずみ年-302.ネズミムギ-
今年はねずみ年ですね。ねずみが名前につく植物は、改訂新版日本の野生植物(平凡社)で調べてみると、ネズミガヤ、ネズミサシ、ネズミシバ、ネズミノオ、ネズミムギ、ネズミモチがありました。他にオオネズミガヤのように間に「ねずみ」と入るものがあるので、ねずみを冠した植物は10数種くらいありそうです。今回はその中から写真があったネズミムギを紹介します。
三重県多気町にて(5月19日)。産地記載無いものは全て同じ撮影日です。
よく見るけど実は取り出したことがない。ネズミが食べる程度の大きさなのかな?
ネズミムギはヨーロッパ~北西アフリカ原産の外来種で、イネ科ネズミムギ属の一年草か越年草(えつねんそう:秋に発芽して冬越し、翌春に開花・結実して枯死する)です。明治時代に牧草として導入されたのがきっかけで、今ではほぼ日本全国の河川敷や牧草地周辺でごく普通に見られます。牧草としての名前はイタリアンライグラスです。なかなか、この牧草名が覚えられないんですよね…。
東京都世田谷区にて(5月22日)。こんな感じで群生する時もあります。
ネズミムギは図鑑では一年草と書いてある場合もありますが、野外では5~6月に開花するので、野外に逃げている個体の大半は越年草なのだと思います。ただ、牧草という性質上、春に種子を撒いたら秋に開花することもあるのかもしれません。小麦の春に撒いて秋に収穫する春小麦と、秋に撒いて初夏に収穫する冬小麦のような関係と同じですね。ネズミムギは開花期に大量の花粉を放出するので、春~初夏にかけての花粉症の原因となる植物です。ちょうど5~6月上旬は春の植物調査の真っ最中ということが多く、花粉症の調査員さんにとっては厳しい時期です。もし、秋にも開花していたら、一年中ネズミムギに悩まされることになってしまい、調査どころではなくなってしまいますね。ネズミムギが群生するような草地は、在来の植物も少なくなってしまうので、人だけでなく在来植物にとっても迷惑な存在です。
ネズミムギの特徴は次の3点です。
①大きさ:茎は直立し、花が咲いている時期で膝丈~腰丈ぐらいになります。
②花序の形:花序(かじょ:小穂の集合)は分枝しないで、中軸に交互に無柄の小穂(しょうすい:花の集合)をたくさんつけます。花序は直立から少し頭が垂れる程度です。小穂と小穂の間は間隔があります。小穂は中軸から外さなくても、小花(しょうか:1個1個の花のこと)の個数が明瞭にわかります。
③小穂の形:小花は10個前後からなります。第2包頴(だい2ほうえい:写真参照)の長さは小穂の半分程度の長さ。護頴(ごえい:写真参照)には長い芒(のぎ:写真参照)があります。
似たような植物はいろいろあります…。一番似ているのが、同じ属のホソムギです。ホソムギは小花の数が10個未満、第2包頴が小花の1/3~3/4の長さ、護頴に芒が無い、花のつかない茎が多いといった特徴があるようです。ただ、ホソムギとネズミムギの雑種というのもあるようで、ネズミホソムギと呼ばれています。
同一場所で生育していた3個体の小穂。一番下は芒が無いのでホソムギみたいだが、明らかに小花が多くて第2包頴の長さも短く、雑種っぽい。一番上はネズミムギみたいだけど小花が7個と少し少ないが雑種なのか?一番上と下が雑種なら、ネズミムギと思っている真ん中も雑種??考えても答え出なそう…
雑種なので当然、両者の中間的なものもあれば、ネズミムギに近いものがあったり、ホソムギに近いものがあったり…。そんなの区別できるかっ!!
てなことで、私はあまり雑種は考えずに近い方で記録しています。