鹿島の森-(石川県加賀市)-
「鹿島」と聞くと鹿島アントラーズの鹿島を思い浮かべてしまい、茨城県の森かと思ってしまいますが、今回訪れたのは石川県加賀市の「鹿島の森」です。石川県と福井県の県境付近にあり、石川県を流れる大聖寺川と福井県の北潟湖がつながる部分にある半島の先の森です。
手前の水面が大聖寺川。大聖寺川の船着き場からモコモコした森を撮影。
森の中央に鎮座するお社。森が非常に立派な割にはとても簡素…。
この森には鹿島神社が祭られていて(名前の由来は鹿島神社にあるんですね)、鎮守の森として大切に保護されてきたようです。数百年斧を入れたことが無いということです!😲これはきっと何か住んでますね…😁散策路を歩いて森の中に入ると、地面で一斉にカサカサと音が…😨
林内の水場にカニの大群が!結構すばしっこく、近づいて写真を撮ると逃げてしまう。
一瞬ゾワゾワッとするかもしれませんが、アカテガニです。海と森を生活の場としているようで、水辺で個体数が多いものの、結構森の奥にも生息していました。散策路を歩くときは注意が必要ですね。
タブノキの巨木。胸高直径はこれで約100cm、樹高は18mくらいかな。
森に入って次に目を奪われるのは立派な大木です。大木はタブノキ、ケヤキ、スダジイが殆どで、中には胸高直径で1mを超えるような大木もあります。この森は高木層でタブノキが優占することが多く、ヤブニッケイ、シロダモ、ヤブツバキが亜高木層や低木層に、草本層にヒメアオキ、ベニシダ、テイカカズラ等が多く、典型的な海辺の常緑広葉樹林と言えます。大木の多さからも立派な自然林と言え、森自体が天然記念物として指定されています。
中央の茶色っぽい色をした葉がスダジイ。大きさはわからないけど立派です。
これだけ立派な常緑広葉樹林は常緑広葉樹林の本場である本州の太平洋岸・四国・九州でもそれほど多くはないと思います。石川県を含む北陸地方というと雪の多い地方で寒いイメージがありますが、海沿いの平野部は気候的には暖温帯に属していて、常緑広葉樹林が本来の植生になるようです。実際に訪れた8月下旬は超暑くて、熱中症になりそうなくらいでした🥵。
こんなに鬱蒼とした森でも20m×20mの範囲に生育する植物は30種未満。
しかし冬になれば当然寒くなり、雪も降りますよね。今でこそ暖冬で雪はそれほど積もらないのかもしれませんが、金沢の雪の兼六園の写真はよく目にしますもんね。そのような冬場の寒さは、生育している植物にも影響を与えます。鹿島の森はこれだけ立派な常緑広葉樹林ですが、驚くほど植物の種類少なく、種組成は単調です。同じような常緑広葉樹林でも紀伊半島・四国・九州といった暖地のものに比べれば、生育する種数は半分以下かもしれません。特に低木類やシダ類は少ないような印象を受けました。
タブノキの足元にからまるツタウルシ。新鮮な組み合わせ。
鹿島の森は植物屋さんから見ると少し退屈な感じですが、植生屋さんの視点でみると面白い面もあります。例えば冷温帯に多いツタウルシがタブノキに絡んでいたり、ケヤキとタブノキの大木が混生していたり、常緑広葉樹林の歩道沿いにオオタチツボスミレ(多分)が生育していたり。いずれも太平洋側の常緑広葉樹林ではあまり目にすることのない組合せで面白いと思いました。
常緑広葉樹林内は日陰で少しは涼しいかと思いきや、この日は全く涼しくなかったです。花も少ない時期なので、この時期の訪問はあまりお勧めしません。訪れるなら春か秋がいいかな~。
ヤブラン。庭でもおなじみの植物ですね。これはベストシーズンでした。
カラタチバナ。花ではなく若い実です。正月の寄せ植えでたまに見ますね。
マルバノホロシ。ナス科のつる植物です。これは林内には無く林縁部に生育します。
タブノキ。1mぐらいの稚樹。直径1mになるには何年かかるのかな~。
ヒメアオキ?今回は調査で訪れた(正式な手続きとってます)のですが、昔の調査票ではヒメアオキとなっていました。1.7mぐらいまでは成長するものもあり、この写真だけ見ればどう見てもアオキ…。全体的には小型のものが多いですが、東北日本海側のブナ林で見たのに比べると明らかに大きかったです。私の住む岐阜県でも飛騨地方のものはヒメアオキで、美濃地方のものはアオキとされることが多いですが、両者は遺伝的には違いが無く、標本にすると区別できないということです(岐阜県植物誌)。アオキとヒメアオキは区別する必要がないのかもしれませんね。