春といえば黄色の花-313.ヤブヘビイチゴ-
春は黄色の花が多い季節です。そんな黄色の花の中でヘビイチゴの仲間は皆似たような花をつけるので、慣れるまでは識別が難しいグループです。人里近くでよく見かける仲間としては、このヤブヘビイチゴの他に、ヘビイチゴとオヘビイチゴがあげられます。
岐阜県関市にて(4月19日)。産地記載ないものは撮影日・撮影場所同じです。
林縁でわりと背の高い草と混生することもあります。藪に強い植物のようです。
ヤブヘビイチゴは名前に「ヤブ」とつくので、ヘビイチゴやオヘビイチゴに比べるとやや日陰の環境に多く生育している気がします。ただ、ヘビイチゴやオヘビイチゴも日陰に生育することがありますし、谷津田のようなところでは日当たりのよい畦にヤブヘビイチゴが生育していたりすることもあるので、生育環境で種類を決めるのは無理がある感じです。やはりちゃんと形を見ないとダメみたいですネ。
花は直径1.5-2cm程度で、けっこうきれいです。たくさん咲くとかわいい。
ヤブヘビイチゴはバラ科キジムシロ属の多年草(たねんそう:地下部が2年以上生存し、毎年花や実をつける)で、北海道~九州に分布します。やや湿った環境に生育し、草地、林縁、明るい林内等に生育します。
群馬県長野原町にて(6月22日)。種を識別するにはこの状態が一番よい。
ヤブヘビイチゴは花の時期ではなく、実の時期の方が識別は容易です。花の時期や花・実のない時期だと、生育環境によってはヘビイチゴとの識別が難しい時もあると思います。もし、今の時期でわからなかったら、3週間後にもう一度訪れてみたら簡単にわかるかもしれません。
多分アイノコヘビイチゴ(岐阜県関市:4月25日)。実はつけなくても庭で増殖中。花はヘビイチゴやヤブヘビイチゴと変わらないので、野外で見つけるのは難しいと思います。
万が一、2-3週間後に訪れてみて、実が1個もなっていなかったら、ひょっとしたらそれはヘビイチゴとヤブヘビイチゴの雑種、アイノコヘビイチゴかもしれません。うちの庭のヘビイチゴは近所の林縁から採ってきて植えたのですが、10数年たっても一度も実をつけたことがないので、多分アイノコヘビイチゴなのだと思います(笑)。
ヤブヘビイチゴはヘビイチゴと基本的な構造は一緒です。典型的な個体は葉でも見分けがつきますが、実を確認することが最も正確な識別方法です。ヤブヘビイチゴの特徴は次の3点です。
①茎と葉:花の時期には地表を這う走出枝(そうしゅつし:地面を横に這う茎で、先端のみに子苗ができる)を多数伸ばし、葉は3出複葉(さんしゅつふくよう:葉柄の先が3つに別れ、小葉3枚からなる葉)で、重鋸歯(じゅうきょし:大きな鋸歯の間に小さな鋸歯がある形状)があります。ここまではヘビイチゴも同じですが、ヘビイチゴに比べると葉の緑色が濃く、大きさも大きい傾向にあります。ただ、色彩や葉の大きさは生育環境によって異なるので、葉の特徴だけで識別する際は注意が必要だと思います。また、小葉が5枚に見えることも多いですが、オヘビイチゴのように完全に5枚に分裂することはありません。
②花:花序は無く、走出枝につく葉と対になるように花をつけます。花は黄色で直径1.5cm前後。萼の形に特徴があり、副萼片(ふくがくへん:写真参照)と呼ばれる部分に鋸歯のある点が他のキジムシロ属の植物と異なるようです。花の形はヘビイチゴも同じです。
③実:実は直径1cm程度で赤いイチゴ状、全体に光沢があります。粒(果実)の部分にはしわがなく、本体部分(正確には花床(かしょう))が白っぽくならない点がヘビイチゴと大きな違いです。見た目はヤブヘビイチゴの方が断然おいしそうです(食べられませんが)。
ヘビイチゴとオヘビイチゴ以外に似た植物はありませんが、葉のみの時期だとミツバツチグリが結構似ています。ミツバツチグリは鋸歯が単鋸歯のことが多い点で、ヤブヘビイチゴと異なります。その他にもキジムシロ属の中には3出複葉のものが多くありますが、類似種として紹介した植物以外は、山奥に生育しているものが多く、人里近くに生育するものはありません。